それは、苦い戦いの記憶だった・・・。3年前、緑の山々に周囲を囲まれた平和な田舎街チャニーズ・ヒルに
起きた怪現象・・・ライラアルフォンにとってその事件が全ての始まりであった。
突如として外界と隔絶されてしまった街。救助に向かった軍隊さえも二度と還ってこなかった。
その非常事態に対処すべく、当時、陸軍において対ゲリラ用として新設されて間もないS−SWATに
出動の命令が下った。
S−SWATとは超常能力によって、普通の銃弾に念を封じ込め通常の数倍の威力をもたらす
特殊攻撃部隊である。
一路、チャニーズ・ヒルに進路を取るS−SWAT。だが、メンバー最年少の女性隊員として
チームに加わったライラが、悪魔の街で出会ったものは、地球上の生物の概念を越えた異形の怪物たちと
ライラ自身の秘められた過去だった。
現在我々が生存している世界とは別に、もう一つ別の世界が、時間と空間の狭間に存在している。
そして、その二つの世界をつなぐものが“黄泉路(よみじ)”と呼ばれる暗黒の道である。
太古より異世界の住人は黄泉路を通って地上に姿を見せ、数多くの厄災と死を撒き散らしていた。
度重なる地上の混乱を見るに見かねた異世界の指導者達は、黄泉路を封印させるべく使者を放った。
黄泉路を挟んで存在する二つの世界は、いわばコインの裏と表、地上への不必要な干渉が
両界の均衡を崩せば、それは恐ろしい結果を招くとも限らない。
しかし、こちらの世界から、聖なる神器を用いて黄泉路を封印した使者は、もう二度と元の世界へ
帰ることは出来なかった。彼らは、再び黄泉路がその邪悪な口を開くことのないよう防人(さきもり)として
その地に留まり、もう一つの人生を歩み始める。
チャニーズ・ヒルの黄泉路を守る防人の名はブラウニング・・・ライラの母はその血を引く者であり、
ライラ自身はブラウニング家の最後の末裔であった。
全てが仕組まれていた。S−SWATさえも実はブラウニング家の強力な後盾で結成されたものだった。
長き年月にわたる一族の繁栄は、神秘的な力を秘めた血を薄めてしまい、今一度黄泉路が目覚めたときに
対抗し得るための能力を失ってしまっている。その危惧感こそが、S−SWAT設立の動機であった。
一般の人間の中にもブラウニングと同様の、あるいはそれ以上の超常能力を持つ者がいる。
そういった人間を集め、訓練を行い、戦闘能力に富んだ者だけがS−SWATに選ばれたのである。
多くの屍を乗り越えて戦いは終わった。黄泉路は封印され、静けさを取り戻す街。生存者はごくわずか・・・
S−SWATの中ではライラとキャメロン少尉の二人しか生き延びられなかった・・・。
・・・だが、この史上まれに見る集団虐殺事件は秘密裡に処理された。全ての関係者に箝口令がしかれ、
生き残った民間人には無期限の監視体制がとられた。チャニーズ・ヒルに起きた事件を指し示す証拠は
何処にも見あたらなかった。ただひとつ、その翌年から超常能力特殊攻撃部隊S−SWATに
軍の大幅な予算が割かれるようになったということ以外は・・・。
そして今・・・。
サン・ドラド−それは内海に面したラインスター島を中心に産業・文化の新拠点として大規模な都市改造が
行われた一大ニュータウンである。ラインスター島の南に位置するキール島にはサン・ドラド全土の電力を賄う
原子力発電所が建造され、今や操業を待つばかりであった。
全ての移住、全ての工事が完了しないままキール原発が運転を開始した直後に、事件は起こった。
原発が正体不明の集団に襲撃・ハイジャックされてしまったのだ。原子炉大爆発の危機にサン・ドラドは
パニックとなり、一帯には緊急避難命令が発せられた。しかし、時を同じくして島の至る所で爆弾テロが起き、
住民の多くはラインスター島に取り残されたままとなった。
S−SWATはチャニーズ・ヒルの事件以降、急速に軍内部でのポジションを高めつつあった。
キャメロン隊長の下、新たな3人のメンバーを加え、ライラは異例ともいえる昇進によって
副隊長の任についていた。しかし、3年の間に新生S−SWATが出動したのは幾つかの人質解放作戦の
バックアップのみで、本格的な作戦参加はいまだ行われていないのが実情であった。
その5人の元へサン・ドラド事件での正式な出動要請が出た。しかし直属の上司であるフィッシャー准将から
ブリーフィングを受けている最中、ライラは自分の中に、ある一つの推論が湧き起こるのを感じていた。
そして、その推論は准将の指さした方向に横たわっているものを目にしたとき確信となった。
そこには、あのチャニーズ・ヒルで遭遇したのと同じ奇怪な生物が、容器の中で醜悪な姿を見せていた。
サン・ドラドの下水道で捕獲されたという、そのクリーチャーの不気味に蠢く触手を見つめるライラ。
彼女の脳裏にチャニーズ・ヒルの悪夢が蘇る・・・。
黄泉路は一つではなかったのか・・・。それに、あまりにタイミングの良すぎる原発ジャック・・・ライラは今、
新造都市サン・ドラドで繰り広げられようとしている惨劇の彼方に、何か邪悪な存在を感じ取っていた・・・。
(マニュアルより)
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